仏典に見られる「魔軍」について

高橋氏は自らを弥勒菩薩(法華の行者)としており、魔軍を消費させることが、娑婆世界を亡ぼし、浄土を建立する方法だと指摘している。そこで本頁は、仏典に見られる「魔軍」について、正しい定義づけをするとともに、高橋氏の「魔軍」理解と比較することを目的とする。

『弥勒下生経』の「魔王」

【原文】

爾時魔王名大將。以法治化。聞如來名音響之聲。歡喜踊躍不能自勝。七日七夜不眠不寐。是時魔王將欲界無數天人至彌勒佛所。恭敬禮拜。
(中略)
爾時大將魔王告彼界人民之類曰。汝等速出家。所以然者。彌勒今日已度彼岸。亦當度汝等使至彼岸。

『大正新脩大藏經』14巻421頁下段22行目~422頁上段8行目


【国訳大蔵経訳】

その時に魔王を大将と名づく。法を以て治化し、如来の名音響の声を聴いて、歓喜踊躍して自ら勝ふること能はず、七日七夜眠らずいねず。この時、魔王、欲界無数の天人を率いて弥勒仏の所に至り、恭敬礼拝せり。
(中略)
その時大将魔王、かの界の人民の類に告げて曰く、「汝ら速やかに出家せよ、しかる所以は弥勒今日既に彼岸に度し、また正に汝等を度し彼岸に至らしむべし」と。

(国訳大蔵経編輯部編『国訳大蔵経 : 昭和新纂 経典部』第2巻(東方書院、1928年)、180頁~190頁)

「国立国会図書館デジタルコレクション」参照のこと)


【意訳(筆者訳)】

その時、大将という名の魔王がいた。法による統治(*1)を行い、如来の名前を聞いて歓喜踊躍していた。

この魔王は欲界の大多数の天人を率いて、弥勒仏のところに行き、恭敬礼拝したのである。

(中略)

その時、大将という名の魔王は、その世界の人民たちに「おまえたちは早く出家しなさい。理由は、弥勒如来(*2)がすでに覚りを開かれ、また(弥勒如来が)おまえたちを彼岸に渡らせてくれるからである」



このように『弥勒下生経』では、魔王は理想的為政者として述べられているほか、弥勒仏に帰依し、また自国民にも出家することを勧めている存在である。したがって、弥勒と魔王とは、仏道上良い関係性にあることがわかる。



高橋氏の解釈

高橋氏は、リニア新幹線やビルの建設技術について「魔の(神)通力」によるものとしており、インフラや社会をつくりあげる技術を魔軍によるものとして理解している。

続いて高橋氏は「大乗仏教では、成仏と浄土を目指さないものは悪である」としており、これら社会基盤は世俗の幸福を満たす悪であるという認識にたっていると考えられる。

(おそらく仏教上に見られる出家主義や、「世俗の善(*1)もまた果報をもたらし、離れるべきもの」という仏教思想を拡大解釈し、誤認したものであると考えられる(本来は世俗と関わらなければ良い))


したがって、高橋氏の思想においては、社会インフラは魔軍によって成立しているものであり、それは成仏・浄土転生に反するものだから、社会インフラを支える魔軍を消費させ、倒すことが目的であるとしているのである。